Thursday 7 January 2010

街の中のアート

美術館には限られた人しか訪れない。
開かれたスペースであれば、美術に興味のない人の目をひくことができる。

では、街中でアートをやるってことはどういうことなんだろう。街中でなくとも、新潟の越後妻有大地の芸術祭や、徳島県の神山町におけるアーティスト・イン・レジデンスの例や、今年初めて開催される瀬戸内国際芸術祭のように、田舎や島、山間部で行われるアートイベントの意味。



個人的に考えているのは、西欧の概念であった「美術」が、明治に日本に輸入され、その中で、日本語に翻訳されている過程の延長から抜け出ようとしているのではないかということです。それはもちろん、日本だけに起こったことではなく、西欧から概念が輸入された諸国において、すべて当てはまるのかもしれません。西欧の植民地主義においては、西欧の文化的・産業的概念を基準として、その他の国々を未開の地として扱い、「先進国」として他国を支配しました。その西欧の文化的概念のひとつとして、「西欧芸術」の概念があるわけです。その尺度を、翻訳文化として、言語も十分に理解できないまま、他国が学び、吸収し、そして、発展させる時期なのだろうと考えます。


美術の動向の中で、過去には、多文化主義と呼ばれるものがありました。1989年、パリのポンピドゥーセンターで開催された「大地の魔術師たち展」などは、多文化主義を紹介されるための転換点として知られていますが、松井みどりが『Art in new world』の中で指摘しているように、その紹介の方法はまだ、他国(日本も含め)のアーティストを、"大地の魔術師たち”というプリミティブな存在として紹介していたのです。それがちょうど、20年前のこと。そして、今は本当の多文化主義を経ているのか、まだその中途にいるのか。


一方、パブリックなスペースにおけるアートが、その市民権を得ている現在、美術館とパブリック・アートにおける、観衆にアートを見せる役割の差異や、各美術館の差異などの、勉強と実践をしています。


なんて、ぶつぶつ書いてますが、 
とりあえず、 理屈抜きで感動した、街中のオペラパフォーマンスをご紹介。
スペイン在住の友人より教えてもらったバルセロナの市場でゲリラオペラの映像です。 


ぜひ、ご視聴くださいませ。 








このゲリラ・パフォーマンスの最後の方に、プラカードを持った女性が登場します。
そこにはスペイン語で書かれています。
¿Ves como te gusta la opera?
「あなた、とってもオペラが好きなんでしょう?」
このゲリラ・パフォーマンスは、「椿姫」のオペラ公演の宣伝であることが最後にわかります。





その場にいた人々の中には、「なんだ、広告か」、と思った人もいるかもしれません。
「市場に買い物に来ただけなのに、迷惑だな」、と思った人もいるかもしれません。
私たちの見た記録映像自体が、周到にビデオカメラを設置され、感動している人々の顔を上手に映し出し、編集されているものです。





しかし、このオペラパフォーマンスの素晴らしい。日常的な市場の風景の中に、確実なオペラというテクニックを持ったアーティストたちの介入。そして、驚きは、ゲリラ的趣向によって倍増されています。このゲリラ感がたまらなく面白い。そして、観衆を圧倒する。この場合の観衆は、予期せず観衆となってしまった人たちです。予期、すなわち、ある芸術作品(この場合、オペラ)を見るという心の準備がない場合、その感動が倍増します。それは、誕生日のサプライズ・パーティーのように、やはり、大きく心を動かすのでしょう。


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